安曇野・松本発のインサイトメディア

環境・動物・生物

空き家はなぜ増え続けるのか。2043年、4戸に1戸の住宅が使われなくなる社会

気づけば、近所に使われていない家がぽつり。そんな光景が、特別な地域だけでなく全国で当たり前になりつつあります。総務省の調査によれば、日本の住宅の7戸に1戸がすでに空き家となっており、2043年には4戸に1戸が空き家になると予測されています。

空き家がここまで増えている背景には、人口減少や都市集中、住宅市場の構造的な問題など、いくつもの要因が複雑に絡み合っています。放置された家は、防災や防犯、地域の活力にも影響を及ぼし、見過ごせない社会課題となっています。

この記事では、空き家問題がなぜ深刻化しているのか、どんなリスクがあるのか、そしてこれから、どんな判断が求められているのかを整理していきます。。

空き家は「一部の地域の問題」ではなくなっている

空き家は、過疎地や一部の地方に特有の問題として語られる段階をすでに超えています。近年では、都市部やその周辺の住宅地においても居住実態のない住宅が増加しており、空き家は全国的な現象として捉える必要があります。

この状況は、統計データからも確認されています。

総務省が公表した「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)」によれば、全国の空き家数は900万戸と過去最多を更新しました。これは2018年調査(849万戸)から51万戸の増加にあたります。また、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%となっており、住宅のおよそ7戸に1戸が空き家である状況が示されています。

注目すべき点は、こうした空き家の増加が特定の地域に限定されていないことです。大都市圏の郊外や、かつて宅地開発が進んだ住宅地においても、居住者の高齢化や転出を契機として、住まわれなくなった住宅が発生しています。結果として、「人口が減少している地域」だけでなく、「かつて人口が集積していた地域」においても空き家が生じる構造が広がっています。

こうした実績データの延長線上で、将来についても警鐘が鳴らされています。

野村総合研究所は、人口動態や住宅供給の構造が現在の傾向のまま推移した場合、2043年には空き家率が約23%に達し、住宅のおよそ4戸に1戸が空き家となる可能性があると試算しています。この推計は将来を断定するものではありませんが、現時点で確認されている増加傾向が継続した場合に想定される一つの到達点を示すものです。

以上を踏まえると、空き家問題は個々の所有者の判断や管理の問題として片づけられるものではなく、日本全体の人口構造や住宅市場のあり方と深く結びついた課題であることが分かります。空き家の増加は、社会構造の変化が住宅という形で表面化している現象として位置づけることができます。

空き家が増え続ける3つの構造要因

空き家が増え続ける3つの構造要因

空き家の増加は、個々の住宅や所有者の事情が偶発的に重なった結果ではありません。背景には、日本社会が長期にわたって直面してきた人口構造の変化や、住宅市場の制度設計があり、これらが相互に作用することで、空き家が発生・滞留しやすい環境が形成されています。ここでは、特に影響の大きい三つの構造要因を整理します。

人口減少と世帯構成の変化

第一の要因は、人口減少と世帯構成の変化です。

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計では、日本の総人口は中長期的に減少が続くとされており、高齢化も進行します。重要なのは、人口規模の縮小に加えて、単身世帯や高齢世帯の比率が高まる点です。

住宅を相続する世代がすでに別の住居を構えている場合、相続された住宅は居住されないまま残る可能性が高くなります。人口と世帯の構成変化は、住宅需要の量だけでなく、需要の「質」を変化させ、空き家を生みやすい土台となっています。

都市集中と地域間のミスマッチ

第二の要因は、人口移動の偏りによる地域間のミスマッチです。

総務省が公表する住民基本台帳人口移動報告では、東京圏への転入超過が継続しており、地方から都市部への人口移動が構造的に定着していることが示されています。

一方で、人口が流出した地域に存在する住宅は短期間で減少するわけではありません。住宅は人口よりも長い寿命を持つため、「住む人は減るが、住宅は残る」という時間差が生じます。この地域間の不均衡が、空き家の発生を加速させています。

新築が継続する住宅市場の構造

第三の要因は、住宅市場そのものの構造です。

政府統計の総合窓口 e-Statの統計によれば、人口減少局面に入った後も、新設住宅着工戸数は一定水準で推移しています。既存住宅が大量に存在しているにもかかわらず、新たな住宅供給が継続している点は、日本の住宅市場の特徴と言えます。

新築住宅が資産価値の基準として扱われやすく、中古住宅の流通や評価が十分に進まない状況では、既存住宅が市場に戻らず、空き家として滞留しやすくなります。その結果、住宅ストックが循環せず、空き家が積み上がる構造が固定化されていきます。

相続と制度が生む「放置されやすさ」

空き家の多くは、老朽化や災害といった突発的な要因によって突然生じるものではありません。実際には、相続をきっかけとして住宅の扱いに関する判断が先送りされ、その結果として放置状態に移行していく過程の中で生まれるケースが多く見られます。このため、空き家問題を理解するうえでは、相続と制度の関係を構造として捉える視点が欠かせません。

相続が発生すると、住宅の売却、活用、維持といった選択について何らかの判断が求められます。しかし、相続人が複数に及ぶ場合や、相続人自身がすでに別の住居を構えている場合には、住宅の扱いが喫緊の課題になりにくくなります。その結果、「当面はそのままにしておく」という判断が選ばれやすくなり、空き家としての状態が固定化していきます。

制度面も、この判断の先送りに一定の影響を与えてきました。住宅が建っている土地には、固定資産税の軽減措置が適用される場合があります。そのため、老朽化した住宅であっても、解体によって税負担が増える可能性がある場合には、所有者が対応をためらう要因となります。ここでは、個々の意識や責任よりも、制度上のインセンティブ設計が行動に影響を及ぼしている点に注目する必要があります。

こうした状況を背景に、制度の見直しも進められてきました。

法務省は、相続登記が行われないまま不動産の所有関係が不明確になることが、空き家の長期放置につながっている点を課題とし、2024年4月から相続登記の申請を義務化しました。この制度は、不動産の所有者を明確にし、管理や処分に向けた判断の前提条件を整えることを目的としています。

一方で、相続登記の義務化は、住宅の活用や売却、解体といった意思決定そのものを直接促す仕組みではありません。所有関係が明確になった後も、「どの選択を取るか」を決めきれない状況が残れば、空き家は引き続き放置される可能性があります。

この点について、国立国会図書館の調査資料「空き家対策の現状と課題」では、相続を契機として利用予定のない住宅が発生し、その後の判断が長期間先送りされることで、空き家が固定化していく構造が整理されています。制度対応が進められている一方で、所有者が意思決定を行うための情報や選択肢が十分に行き渡っていない点も、課題として指摘されています。

このように、相続と制度の組み合わせは、空き家を急増させる直接的な要因というよりも、空き家を動かしにくくする前提条件として作用してきました。空き家問題を考える際には、個々の所有者の姿勢を問う前に、判断が先送りされやすい構造がどのように形づくられてきたのかを理解することが重要です。

空き家が地域にもたらす影響

空き家は、所有者個人の資産管理の問題にとどまりません。地域の中で空き家が増えることで、防災や防犯、景観といった複数の側面に影響が及び、結果として地域全体のリスクや負担が高まっていきます。

空き家がもたらす影響の一つが、防災面でのリスクです。老朽化した建物は、倒壊や外壁・屋根材の落下といった危険を内包しており、地震や台風などの災害時には、周辺の住宅や通行人に被害を及ぼす可能性があります。また、管理が行き届かないことで可燃物が放置され、火災発生時の延焼リスクが高まるケースも指摘されています。空き家は、平常時には目立たなくても、非常時に地域の脆弱性を顕在化させる要因となります。

同様に、防犯面への影響も無視できません。人の出入りがない建物は、不法侵入や不法投棄の対象になりやすく、周辺住民に不安感を与えます。空き家が増えることで、地域内の人の気配や視線が減り、結果として犯罪を抑止する力が弱まる可能性があります。こうした影響は、実際の犯罪件数だけでなく、住民の心理的な安心感にも作用します。

さらに、空き家は景観や地域環境にも影響を与えます。適切に管理されない建物は、外壁の劣化や雑草の繁茂などを通じて、街並み全体の印象を損ないます。景観の悪化は、地域の評価やイメージの低下につながり、転入や投資をためらわせる要因となる場合があります。その結果、地域の活力が徐々に低下していくという循環が生まれます。

これらの影響が重なり合うことで、空き家は「使われていない建物」から、「地域全体で負担するコスト」としての性格を強めていきます。個々の空き家がもたらす影響は限定的であっても、数が増えることで、自治体の対応負担や住民の不安、地域環境の悪化が積み上がっていきます。空き家問題は、時間の経過とともに影響が拡大する性質を持つ点に注意が必要です。

このように、空き家の増加は、防災・防犯・景観といった複数の側面を通じて、地域の持続性に影響を及ぼします。空き家を個別の事例として捉えるのではなく、地域全体のリスク管理や環境維持の問題として捉える視点が求められています。

国や自治体の対応は進んでいるが、効果は限定的

空き家問題が社会課題として認識されるようになり、国や自治体による対策も段階的に進められてきました。現在の空き家対策は、放置によるリスクを抑えるための制度整備と、活用を促すための施策を組み合わせた形で展開されています。ただし、その対応には限界もあり、すべての空き家を解消できているわけではありません。

国レベルでは、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」を軸に、危険な空き家への対応が進められてきました。この法律により、倒壊や衛生上の問題がある空き家を「特定空家等」として位置づけ、自治体が助言・指導、勧告、命令、最終的には行政代執行まで行える仕組みが整備されました。これにより、明らかに危険な空き家については、一定の是正が可能となっています。

一方で、すべての空き家が「特定空家等」に該当するわけではありません。管理が不十分ではあるものの、直ちに危険とは言えない空き家については、法的な強制力を伴う対応が難しく、自治体の働きかけは所有者への通知や相談対応にとどまるケースが多くなっています。この点は、制度上の対応が及ぶ範囲と、現実に存在する空き家の幅との間にギャップがあることを示しています。

こうした状況を受け、各自治体では独自の取り組みも進められています。空き家バンクを通じた利活用の促進や、改修費・解体費への補助制度、移住・定住施策との連動など、地域の実情に応じた対応が取られています。ただし、これらの施策は「活用できる空き家」を対象とするものが多く、立地や建物条件によっては対象外となるケースも少なくありません。

また、自治体の空き家対策は、人的・財政的な制約を受けやすい分野でもあります。空き家の実態把握や所有者への対応には継続的な手間がかかる一方で、すべてを行政が担うことには限界があります。そのため、現行の対策は、危険な空き家への対応を優先しつつ、活用可能なものを後押しするという二層構造になっているのが実情です。

このように、国や自治体の対応は一定の成果を上げているものの、空き家の発生そのものを止める仕組みにはなっていません。空き家問題は、行政対応だけで完結する課題ではなく、所有者の判断や地域の関与を前提とした、より長期的な視点での対応が求められています。

空き家を生まないために、判断を先送りしない

空き家問題は、老朽化や人口減少といった外部要因だけで生じるものではありません。これまで見てきたように、多くの空き家は、相続や居住の変化といった節目において、住宅の扱いに関する判断が先送りされることで固定化していきます。空き家を生まないために重要なのは、事後的な対応よりも、判断が宙に浮く状態をつくらないことです。

住宅は、住んでいる間は問題になりにくい資産です。しかし、住まなくなった瞬間から、「誰が管理するのか」「今後どう扱うのか」という問いが発生します。この問いに明確な答えが用意されていない場合、住宅は行き場を失い、空き家として残ることになります。判断を保留できてしまう構造そのものが、空き家を生む温床になっています。

特に相続は、本来であれば住宅の扱いを見直す重要な機会です。ところが現実には、相続が「名義を移す手続き」に矮小化され、活用や処分といった判断が後回しにされるケースが少なくありません。その結果、所有者は明確でも、方針が定まらない住宅が生まれ、空き家として固定化していきます。相続を、判断を先送りできる出来事として扱う限り、空き家の発生を抑えることは難しくなります。

また、住宅の扱いは個人の問題であると同時に、地域や社会に影響を及ぼす問題でもあります。管理されない住宅は、防災・防犯・景観といった面で地域に負担をもたらし、結果として行政対応や公共コストを必要とします。個人の判断が社会的な影響を持つ以上、空き家を完全に私的な問題として切り離すことはできません。

空き家を生まないために必要なのは、新しい制度や特別な対策だけではありません。住宅を「いつまで、誰が、どのように扱うのか」という前提を曖昧にしないこと。そして、その判断を先送りできない構造を、個人と社会の双方で共有することです。判断を前倒しする視点を持てるかどうかが、空き家問題の広がりを左右する分岐点になります。

編集後記

空き家問題を整理していく中で、最も強く感じたのは、「空き家になるかどうか」は住宅の状態よりも、判断がどこで止まってしまうかによって決まっている、という点でした。老朽化しているから空き家になるのでも、地方だから生まれるのでもありません。多くの場合、住まなくなった後や相続が発生した後、その住宅をどう扱うのかが決まらないまま、時間だけが過ぎていきます。

制度は少しずつ整備され、自治体の対応も進んでいます。それでも空き家が減らないのは、「決めないでいられる状態」が、私たちの暮らしや仕組みの中に残り続けているからかもしれません。住宅を所有するという行為は、本来、住むことだけで完結するものではなく、住まなくなった後まで含めた選択を伴うものです。

空き家問題は、遠い未来の話でも、特定の誰かの話でもありません。「この家を、いつまで、誰が、どう扱うのか」。その問いに、まだ答えを持っていない住宅が、すでに社会の中に数多く存在しています。

あなたの身の回りにある住宅は、その問いに、すでに向き合えているでしょうか。

  • この記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
宮本 将弘

宮本 将弘

circu編集長/株式会社toritoke代表

中小企業や個人事業主に向けたマーケティング支援に携わる傍ら、circu.では地域や社会に関わるテーマを整理・編集し、暮らしや仕事と社会構造の接点について発信している。

  1. 空き家はなぜ増え続けるのか。2043年、4戸に1戸の住宅が使われなくなる社会

  2. AI社会に潜む10の問題点、ハルシネーションや情報漏えいなど今向き合うべきリスクとは

  3. AIに「仕事を奪われる」は本当か? 2030年、私たちの仕事はどう変わるのか

  4. 【AI×教育】教えるのは人かAIか?子どもと教育の未来に私たちはどう立ち会うか

よく読まれている記事
DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
注目の記事

関連記事

PAGE TOP